孤立防ぐ「隣人祭り」とは 渋谷区と地域密着志向の企業が協働

渋谷駅前での「渋谷おとなりサンデー」の大々的な告知
渋谷駅前での「渋谷おとなりサンデー」の大々的な告知

地域交流や近所づきあいが大切なのは分かっているけど、そのきっかけがない――。

そのきっかけづくりに取り組む東京都渋谷区と、地域密着を志向する食品・流通・外食などの企業が協働し、 “ご近所さんと顔見知りになる ”を目的とする渋谷区の事業「渋谷おとなりサンデー」が今年も開催されている。

渋谷区版隣人祭り「渋谷おとなりサンデー」

1999年、フランス・パリのあるアパートで起きた高齢者の孤独死をきっかけに、アパートの住人たちが隣人同士の顔の見える関係性をつくろうと、中庭で食事の持ち寄り会(隣人祭り)が開かれるようになった。

街中に広がる「渋谷おとなりサンデー」のフラッグ
街中に広がる「渋谷おとなりサンデー」のフラッグ

ここから着想を得た長谷部健渋谷区長が旗振り役となり17年に立ち上げたのが渋谷区版の隣人祭り「渋谷おとなりサンデー」だ。

毎年6月の第1日曜日にキックオフイベントを開催し、6月末日までの約1か月を開催期間に定めている。渋谷区民以外にも、渋谷で働く人や渋谷で学ぶ人たちが地域交流・地域活動の場を自ら企画するところが肝となっている。

企画から開催までのステップは、各人がまずどんなことをやってみたいかを考え、それを近所の人に提案する。次に、近所の人とアイデアを出し合い、企画内容を特設サイトに投稿して告知・開催、という運びになる。

これまでに、持ち寄りご飯、お茶会、ガレージセール、ダンス、あおぞらピンポンなどさまざまな交流の場が立ち上がり、その数は第1回目の17年が39、2回目の18年が100近くに上る。今年はまだ開催期間中のため未確定だが、6月中旬の現時点で90以上が開催されている。(写真下記事続く)

ガレッジセールやピクニックなど多彩に
ガレッジセールやピクニックなど多彩に
スリッパ卓球も行われた
スリッパ卓球も行われた

「はじめまして」が目的

人付き合いが不得手な人にとって最初のステップである “近所の人への提案 ”は障壁が高いように思えるが、その壁を低くするのが「渋谷おとなりサンデー」の口実だという。

シブヤ大学の青木優莉氏。オープニング場所の鳩森八幡神社で
シブヤ大学の青木優莉氏。オープニング場所の鳩森八幡神社で

「渋谷おとなりサンデー」を運営受託する特定非営利活動法人シブヤ大学の青木優莉氏は「『渋谷おとなりサンデー』は人を集めるのが目的ではなく、自分で企画して近所の方に “はじめまして ”を言うきっかけでしかない。ターゲットは20~40代の渋谷区に住む単身世帯と子育て世帯で、町会に入りづらい方や近所付き合いに悩まれている方に、ちょっとした顔見知りを増やしてもらうのが企画の根っこ」と説明する。

シブヤ大学では企業との橋渡し役も担う。「企業がいきなり地域とかかわりを持とうとしても難しい。その時に『渋谷おとなりサンデー』という渋谷区のお墨付きがあれば飛び込める。いい意味での無礼講だと考えている」。

今回、流通ではセブン―イレブン・ジャパンが渋谷区内にある加盟店87店舗へ事前にポスターを配布して「渋谷おとなりサンデー」の告知に協力。同社は17年に渋谷区とシブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定(S―SAP協定)を締結し、その一環として同年から「渋谷おとなりサンデー」に協賛している。

渋谷区役所内に特設されたAGFブース
渋谷区役所内に特設されたAGFブース

メーカーからは、味の素AGF社(AGF)、伊藤園、キユーピー、サッポロホールディングスが協賛した。

AGFは、開催相談窓口として渋谷区役所内に特設されたブースにスティック1千セットを提供し、5月22日から6月7日の期間、運営スタッフ(シブヤ大学)によって相談に訪れた人へと手渡されたという。

6月2日のキックオフ時には、初台と渋谷の複合施設SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)の計2か所にブースを出展して来場者に無料でコーヒーを振る舞ったほかスティックなどをプレゼントした。

AGFブースではスティックを手渡した
AGFブースではスティックを手渡した

伊藤園とサッポロホールディングスは17年から協賛し、今回はオープニング場所となった鳩森八幡神社などで飲料を提供。キユーピーは昨年、メーン会場となった笹塚駅前にブースを出展。東京支店が主導し同時期に「♯シブサラ in 笹幡」を開催していたことから、「♯シブサラ」紹介もかねてイベントを開催した。

キユーピーは今年も東京支店が主導となり「テイスティドレッシング」900本を提供した。

「♯シブサラ」は、キユーピーが “渋谷をサラダで満ちあふれた街にしたい ”という思いでスタートした渋谷を象徴する盛り付けが特徴となっている。

キユーピーが提案する「♯シブサラ」。渋谷を象徴する盛り付けが特徴
キユーピーが提案する「♯シブサラ」。渋谷を象徴する盛り付けが特徴

その盛り付けとは、サラダの中央にくぼみを作り渋谷の “谷 ”の地形を表現し、その “谷 ”の中にドレッシングや半熟卵を入れるものとなる。渋谷の象徴であるスクランブル交差点のようにサラダの具材をかき混ぜて食べるのだという。

16年に「♯シブサラ」の提案を開始し、17年度以降は、渋谷区と連携を深めながら、渋谷駅近くの繁華街や渋谷中央街で「♯シブサラ Fes」を実施するなどして展開範囲を拡大している。今年は6月1日から30日にかけて「♯シブサラ Fes in 渋谷中央街」が開催され、全18店舗で「♯シブサラ」が提供されている。

お膝元・初台町会とも関係強化 商品提供だけじゃないAGFの取組み

小薮祐子グループ長代理(味の素AGF)
小薮祐子グループ長代理(味の素AGF)

「渋谷おとなりサンデー」は、企業と町会との関係強化にもつながり得る。

AGFは16年5月に新宿区から渋谷区に本社を移転し、以降、味の素グループで掲げられるASV(味の素グループ・シェアード・バリュー)に基づき、本社の膝元である渋谷区初台町会との関係構築が課題となっていた。

関係構築へと動き出したのは昨年で、本社移転前から初台にオフィスを構えている東京支社が先陣をきった。

東京支社営業企画グループの小薮祐子グループ長代理は「 『渋谷区の皆様へのコーヒーを通じた貢献』ということが東京支社の方針に掲げられたことから、まず渋谷区役所さまに電話をかけて相談してみることから始めた」と振り返る。

このアクションを起こしたのが昨年2月で、4か月後に開催される「渋谷おとなりサンデー」を知ることとなる。

初台町会の山崎徹会長
初台町会の山崎徹会長

協賛にあたって「単に自社商品を提供するだけでなく、社員も参加できれば、会社や商品への愛着につながると考えた」ことから、昨年は初台にブースを出展し社員がコーヒーを手渡す形で協賛。このことが初台町会とのご縁に結びついたという。

「初台町会さまに当社が渋谷区の企業であることを知っていただけて、餅つきのイベントにもお声掛けいただけるようになった」と述べる。今年2月に開催された餅つきイベントでもブースを出展しホットコーヒーなどを提供した。

初台町会の山崎徹会長は「AGFさんに町会に入ってもらって、財政的にはもちろん、いろいろな機会にご協力いただいているので大変ありがたい」と感謝の意を表する。

山崎会長によれば、現在、初台は30~40代のマンション居住者層と60~70代の二極が人口のヤマ。マンション居住者は、町会費が管理費とともに自動的に引き落とされるため「どうしても町会に入っているという認識が低くなってしまう」と指摘する。

町会の存続には若い人の参加が欠かせない。まずは町会を知ってもらう第一のステップとして「渋谷おとなりサンデー」のようなイベントに期待を寄せる。

その発信拠点としては初台商店街とともに、AGFが今年も出展した初台緑道を重要視。渋谷区では、初台緑道を含む代々木三丁目から笹塚一丁目に続く玉川上水旧水路緑道の再整備を検討している。(写真下記事続く)

初台緑道に構えるAGFブースと社員
初台緑道に構えるAGFブースと社員
AGFブースを訪れる子どもやお年寄り
AGFブースを訪れる子どもやお年寄り
子ども連れのファミリー層が多く訪れた
子ども連れのファミリー層が多く訪れた

「渋谷ブレンド」

「渋谷ブレンド」は私鉄系スーパーで販売中(150g税別498円)
「渋谷ブレンド」は私鉄系スーパーで販売中(150g税別498円)

30~40代を引き付けるツールとしてコーヒーは有効で、今回、AGFの出展ブースには子供連れのファミリー層が多く訪れていた。

「東京支社では新入社員は100%参加してもらい、積極的にコミュニケーションをとるように伝えている」(小薮グループ長代理)ことから、呼び込みも活発に行われた。

出展内容はブラッシュアップされ、昨年はアイスコーヒーの提供(600杯分)だけだったのを、今年はアイスコーヒー(500杯分)にホットコーヒー(350杯分)を加えて拡充したほか、子供向けにAGFキャラクター「ビーン太くん」のステッカーを用意した。

今回提供したコーヒーは「渋谷ブレンド」を採用。これは「カフェ好きが集まる奥渋谷で飲まれているようなコーヒーをイメージし、深めの焙煎でミルクとも合わせやすくなっている」レギュラーコーヒー(粉)で、私鉄系スーパー8社が共同で設立した八社会(Vマークバリュープラス)限定商品として今年3月に「横浜ブレンド」とともに新発売された。

渋谷キャストに構えるAGFのブース
渋谷キャストに構えるAGFのブース

今回、初台に加えて渋谷キャストにもブースを構えたのは、この「渋谷ブレンド」が引き金になった。

「渋谷区役所さまに『渋谷ブレンド』を飲んでもらいたいと提案したところ渋谷キャストさまをご紹介いただいた。今後は『渋谷ブレンド』のように事業活動と連動しながら、渋谷区の企業として存在感を高めていきたい」と意欲をのぞかせる。

なお「渋谷ブレンド」は150g498円(税抜き)の高価格帯商品で八社会の主要スーパーにはすべての店舗に配荷され販売状況も上々だという。