「ナッジ」の威力

ランチで入ったカレー店で、注文してから財布に現金が300円しかないことに気付いた。クレジットカードは使えないという。慌ててATMに走った。

▼気付けば、現金の持ち合わせに無頓着になっている。クレカや電子マネーで支払いを済ますことが増えたためだ。以前は現金派だったが、そのほうが何かと合理的だという思考に変わってきた。

▼行動経済学に「ナッジ(NUDGE)」という考え方がある。もともと「ひじで小突く」といった意味の単語だが、人々に合理的な行動をとらせるための仕組みを指す。「仕組みを作りだした人間が、その仕組みを利用する人間の行動や生き方を事前に制御するという、ある種のパターナリズム、父性的温情主義の側面がある」(『感情で釣られる人々 なぜ理性は負け続けるのか』堀内進之助)。

▼現金派からの転向も、キャッシュレス化を推進したい国や企業のナッジにまんまと誘導された結果ともいえる。合理的な施策も強制すれば反発を買うが、「お得」「便利」といったインセンティブを利用すれば受容へとやんわり仕向けられる。それに抗う側は、次第に不便を強いられていく。その是非はさておき、そんな構造には留意しておきたい。