鹿児島県・伊仙町篇⑨
台風と無縁のコーヒー農園 ガーデンスタイルとセミフォレストを展開

“自然の猛威には自然の力でいなす”

宮出博史さん(42歳)は07年から奄美群島の徳之島でコーヒーの栽培を手掛け17年春に300本の収穫に成功。昨年9月末には過去最大級の台風が徳之島を襲来したが、宮出農園はほぼ無傷で300本強を維持している。

台風を乗り越えられた要因は、森の中でコーヒーを栽培するセミフォレストと防風林で畑を取り囲むガーデンスタイルの手法にある。宮出さんは9年前(10年)の台風で2千500本を全滅させたその日から森づくりなどこの2つの手法に着手した。

「防風ネットのかいなく2千500本を全滅させた時、隣のおじいちゃんに言われたのが“自然の猛威には自然の力でいなす”ということ」と当時を振り返る。

徳之島町にあるセミフォレストの農園

セミフォレストでは森を購入し陽光が適度に差し込むように間伐し、比較的平坦な土地ではネムノキなどを植樹してガーデンスタイル化を進めていった。当時、宮出さんは大阪でカフェを営んでおり徳之島と大阪を行き来する二足の草鞋(わらじ)であった。

そもそもコーヒーの栽培を始めた目的は、自家製コーヒー店の開業にあった。「癒しを与える農園とカフェがやりたくて、沖縄などいろいろ探していく中で徳之島を訪れたが、ストレスフリーな徳之島では癒しの提供は不要だと思い大阪でカフェを開業した」と語る。

現在、その思いは少し変わり、徳之島をコーヒーと観光の合わせ技で盛り上げていくことを志向する。この思いのもと、移住を決断し、昨春から徳之島コーヒー生産者会会員と伊仙町の地域おこし協力隊としてコーヒーの栽培に専念している。大阪のカフェは現在、シェアロースターとして展開している。

「私の農業はプランテーションではなく、光の調整が全てともいえる林業。セミフォレストの農園は台風とは無縁だが、プランテーションやガーデンスタイルと比べて収量が少ない。しかし観光としてはセミフォレストのほうが絶対におもしろい。サイクルツーリズム(自転車観光)のスポットにもなりうる」とみている。(写真下記事続く→)

セミフォレスト農園は道路から下ったところに広がる。
セミフォレスト農園は道路から下ったところに広がる。
伊仙町にあるガーデンスタイルの農園

コーヒーと観光の合わせ技 ブランドづくりで味の素AGFに期待

徳島町にあるガーデンスタイルの農園
徳島町にあるガーデンスタイルの農園

宮出農園は現在、徳之島町にガーデンスタイルとセミフォレストの2カ所、伊仙町にガーデンスタイル1カ所の計3カ所に広がる。セミフォレストについては「エチオピアとは異なり日本では完全な森になってしまうとコーヒーの木は淘汰されてしまうが、森になる過程で物凄く効果がある」と説明する。

セミフォレストの農園は3町(2万9千700㎡)の森の数反を開墾して存在し、開拓余地を十分に残している。木々が生い茂る中、せせらぎや段々畑のような明媚なポイントがいくつかあり、宮出さんは、ここで手回し焙煎機やウッドデッキを用いたコーヒー店の開業を夢みる。

同農園で育つブルーマウンテンの栽培品種

「ここで収穫体験もできるようにして、どうやったら島に人が来るかを考えている。世界自然遺産に登録されて一時的に観光客が増えても、リピートしてもらわなければ意味がない。リピートさせるのが我々の仕事で、それにはコーヒーが一番いい」と述べる。

その点、徳之島コーヒー生産支援プロジェクトに参画する味の素AGF社に寄せる期待も大きい。「ブランドづくりとイメージの定着化が進むものと思っている。徳之島=コーヒーとイメージされる方はまだまだ少ないと思うので、AGFさんには頑張ってもらいたい。私はゼロから1にするのは得意だが個人の力ではせいぜい10くらいにしかできない。1を100にするには大企業の力が必要」と期待する。

宮出農園のコーヒーの木は、台風対策として、若木のうちに幹を人工的に横倒しにしたり、高さ2mを上限に芯止めしているのが特長。これによりコーヒー豆の品質には影響を与えないものの収量が減少。宮出農園ではその減少分をコーヒーの花・葉・果肉(コーヒーチェリー)の副産物で補っている。「コーヒーの副産物は量が見込めることから、商売としては副産物のスペシャリストを目指す。副産物はニカラグアやコスタリカでも動き出している。」という。(写真下記事続く→)

セミフォレスト農園で育つコーヒーの木々。台風対策として、若木のうちに幹を人工的に横倒しにされている。
セミフォレスト農園で育つコーヒーの木々。台風対策として、若木のうちに幹を人工的に横倒しにされている。
セミフォレスト農園。真ん中の窪地に小川が流れる。
セミフォレスト農園。真ん中の窪地に小川が流れる。
セミフォレスト農園の段々畑のような場所
セミフォレスト農園の段々畑のような場所
昨年11月23日に開催された「伊仙町産業祭・食の文化祭」ではブースを出展し、コーヒーの葉を発酵・焙煎・抽出した“コーヒー茶”を販売
昨年11月23日に開催された「伊仙町産業祭・食の文化祭」ではブースを出展し、コーヒーの葉を発酵・焙煎・抽出した“コーヒー茶”を販売

副産物は“コーヒーの木まるごと”をテーマにした「Coffee Tree Apartment」のブランドを冠にして自社通販などで販売され、伊仙町の返礼ギフトにも採用されている。副産物は、地域おこし協力隊の管轄部署である伊仙町未来創生課も副産物に全面支援の構えだ。

昨年11月に開催されたコーヒー&カフェ産業展示会「ソウルカフェショー」では「Coffee Tree Apartment」を採用した日本人バリスタがコーヒーカクテル部門で優勝したという。

コーヒーは徳之島コーヒー生産者会を通じて流通させていく。宮出農園では「徳之島コーヒーも最終的にはおいしさが求められるようになる」との見通しのもと、国際審査員によって選ばれるカップ・オブ・エクセレンス(品評会)を視野に、ケニアの超高級品種やブルーマウンテンの栽培品種なども栽培している。

コーヒーの茶について効能に関する質問が多く寄せられた。
コーヒーの茶について効能に関する質問が多く寄せられた。

「世界に通用する徳之島でしかできないやり方がある。寒暖差が弱く個性がないのが課題だが、お付き合いのあるバリスタの間では“個性がないのが個性”とも言われている。いろいろな品種を植えると交配種になる可能性があるが、最終的には徳之島のコーヒーとして個性が出せる」と自信をのぞかせる。

宮出さんが個人的に思い描くのは、徳之島コーヒーを島内で流通・消費させて観光客を誘致していく展開だ。「稼ぎたいだけだったらコーヒーはさほど儲からないのでやっていない。今まで何でも外に出してきたが、徳之島の至るところに飲める場所をつくれば観光にも産業にもなると考えている」。

コーヒーの葉の手回し焙煎を体験する子どもたち
コーヒーの葉の手回し焙煎を体験する子どもたち
手回し焙煎されたコーヒーの葉
手回し焙煎されたコーヒーの葉
都内のコーヒーイベントで“コーヒーの木まるごと”をテーマにした「Coffee Tree Apartment」をアピールする宮出さん
都内のコーヒーイベントで“コーヒーの木まるごと”をテーマにした「Coffee Tree Apartment」をアピールする宮出さん