〈密着 自販機を磨く人たち③〉ルートセールスの強み発揮 効率化で時間捻出し営業活動 伊藤園

〈Location1〉大手町オフィスビル オンラインシステムが重宝

伊藤園の自販機オペレーションの最大の特徴は、社員自らがルートセールスの一環で行っている点にある。

自販機オペレーションは一般的に、メーカーのグループ会社あるいは外部企業が担い手となっている。

「販売が前年を上回った時が一番うれしい。自販機の回転がよければ、ビルオーナーさまに増設をお勧めすることもあるが、常にオーナーさまとコミュニケーションしていないと、そのような提案はしにくい」ことから自らあいさつの徹底を課すのは、東京・大手町のオフィスビルを担当する佐藤敦彦さん。入社16年目で浅草支店グループリーダーを務める。

“自販機オペレーションは作業ではなく営業”“自販機ルートセールスは数十台の自販機を管理する店長である”――業界内で言われるこのようなあるべき姿を最も体現しているのが伊藤園のルートセールスといえる。

ルートセールスの社員は既存客の売上げ管理と訪問や新規開拓がメーンの業務となる。日次と月次で進捗状況を把握しながら、自販機への商品の補充といった業務をできるだけ効率化し、短縮できた時間を使ってお客さまとの接点を増やす努力をしている。

東京・大手町のオフィスビルを担当する佐藤敦彦グループリーダー(伊藤園)
東京・大手町のオフィスビルを担当する佐藤敦彦グループリーダー(伊藤園)

オフィスビルを担当する佐藤さんの場合、ビルオーナー以外に、オフィスビルに入居する企業や小売店にアプローチしている。近年の状況について「大手町は再開発で人が増えていることもあり、貸し会議室や社員向けリフレッシュメントコーナーなど業務用のニーズがとても増えている」と説明する。

新規開拓については「ゼロからの開拓は難しく、何かしらのつながりを探っている。大手町は再開発中にあるため、工事現場にある売店や自販機でも人間関係の構築に取り組んでいる。オフィスはなかなか難しいロケーションだが、設置できれば売上げも大きいのでプラス思考で取り組んでいる」。

オフィスロケーションの制約は多い。駐車や入館の手続き、狭い通路を運搬する際の入居者への配慮、エレベーターの待機時間などの制約がある。特に高層階オフィスの場合、エレベーターで10分、20分以上待つことはザラだという。

このような環境下で、効力を発揮しているのが数年前に導入したオンラインシステム。現在、約16万台の伊藤園自販機のうち東京・神奈川を中心に約2万7千台に導入され、浅草支店が管轄する台東区と千代田区の一部ではすべての自販機に導入されている。

オンラインシステムとは、ハンディタイプの端末と自販機自体が通信することで、自販機を訪れずとも販売データをオンライン上で把握できるもの。これにより従業員は補充の必要がない自販機への訪問を見送ることができ、データ確認のための訪問が省かれ営業車から自販機までの一往復分の移動時間を短縮することができる。

「昔は自販機まで行き販売状況を把握してから営業車に戻り必要な数の商品を持って再び自販機を訪れるという2WAYだったが、今はオンラインで販売状況が把握でき1WAYで済むため、駐車場所と自販機が離れているロケーションでは重宝している」という。

季節感ある装飾を施し清潔感ある自販機へ

オンラインシステム導入自販機全体では、1回の訪問に要する作業時間が約3分半短縮され、その上、無駄な訪問が省かれることによって1日約1時間短縮の実績を上げている。その結果、1訪問当たりの売上げは約2割増と拡大し、時間短縮によって担当件数が増やせることもでき、生産性がアップしている。

浅草支店ではオンラインシステムを参考に1日の訪問ルートを決める。「8時30分に出社するとオンラインの帳票ができていて、それをみて補充すべきところや欠品が予知できるところをチェックして1日の予定を立てていく」。

佐藤さんが朝礼を終えて支店を出発するのは9時すぎ。補充・営業などを行いつつ、昼頃に端末を使って次の日に使用する分の出庫を依頼する。出庫は営業所内にいる担当従業員が行い、佐藤さんは帰社後に出庫された商品を営業車に積み込み次の日に備えてから入金などの事務処理を行う。

年間を通してみると繁忙期は夏だが、業務的な繁忙期はホット・コールドの切り替え時期。「いったん温めた商品は、商品劣化につながるためコールドで販売することができず、切り替え時の自販機内商品在庫の管理が非常に難しい」という。

自販機の活性化について訊ねると「他にはない商品をどれだけ売り込めるかだと思う。ここでは『ごくごく飲める毎日1杯の青汁』やトクホの『黄金烏龍茶』が売れ筋で、空き容器回収時も売れ筋が分かるヒントとなることがある。併設自販機との差別化には自販機自体を清潔感よく販促物などを使って装飾したりしている」と応える。

浅草寺の自販機。多くの外国人旅行客が利用する
浅草寺の自販機。多くの外国人旅行客が利用する

〈Location2〉上野・浅草 インバウンド需要に注力 モバイル決済など新機能導入

浅草支店では電子マネー決済やクレジット決済のシステムなどを取り入れインバウンド需要への対応にも注力している。18年11月現在では、同支店管轄エリアで中国トップシェアのメッセンジャーアプリ「WeChat(ウィーチャット)ペイ」対応自販機3台を展開し、「Alipay(アリペイ)」のモバイル決済と交通系を含む各種電子マネーに対応した自販機の導入を準備していた。

上野で担当者を指導する田中正明副支店長㊨(伊藤園)
上野で担当者を指導する田中正明副支店長㊨(伊藤園)

ウィーチャットペイ第1号機のある上野エリアで取材に応じた田中正昭副支店長は「ウィーチャットペイの利用は当初1%程度しかなかったが、徐々にではあるが利用率が上がってきている」と手応えを語る。

訪日外国人が急増している浅草のメッカ・浅草寺境内には数十台の自販機が設置されている。同自販機は売上げの一部が浅草寺境内の美化活動に充てられるものだ。伊藤園は浅草寺限定ブランドの水商品「浅草限定 富士天然水」も同自販機で販売している。

浅草寺との関係について田中亮一支店長は「多くの観光客が訪れる中で、浅草寺さまは『お茶』という日本文化に強みを持つ当社に共感いただき、自販機の設置拡大につながった。境内では大茶会やリーフの販売をしたり、給茶器によるお茶の無料サービスを年2回行っている」と説明する。

顧客接点の拡大と販売増に意欲をのぞかせる田中亮一支店長(伊藤園)
顧客接点の拡大と販売増に意欲をのぞかせる田中亮一支店長(伊藤園)

田中支店長が指摘する自販機の課題は、人手不足と人件費高騰などのコストアップ。「道交法の改正や働き方改革などで自販機を取り巻く環境は大きく変わってきている。販売量の大きな伸びが見込みにくい中で、人件費、燃料費、オンラインシステムの通信費、自販機の付帯機能に伴う設備投資費が嵩んでいる」と訴える。

ただし、このような厳しい状況の中でも売上げ・利益の拡大余地は十分にあるという。「新しいロケーションや海外のお客さまの取り込みにまだまだ期待できる。高齢者にも開拓余地がある。昔の高齢者はパッケージ飲料を飲まなかったが、今の高齢者は普通に飲まれる」と意欲をのぞかせる。

相対的に価値が低減していると言われるアウトドア自販機については、自販機限定キャンペーン「イングレス」や「ポケモンGO」とのタイアップ効果にも期待を寄せている。