新時代へ駆ける食品業界 食の価値観をアップデート IN&OUTバウンドの両軸 集中・選択から囲い込みの時代へ

2019年、平成31年が始まった。今年の場合は、始まりは終わり、終わりは始まり。「平成」という時代区分は日本に限ったものだが、その時代区分を象徴する空気感がわが国には存在する。4月30日をもって「平成」は終わり、新しい元号のもと、食品業界も新しい時代へ歩を進めることになる。

昨年もまた各地で発生した自然災害は、人命を奪うだけでなく物流インフラの停滞を引き起こすなど多大な被害を与えた。今年はTPP11、日欧EPAの発効による商環境の変化が見込まれ、10月には消費増税が予定されている。国内消費がどう変化するのか懸念されるが、これに合わせIT、IoTの導入も一層進展しそう。

消費者の購買意欲の減退、節約志向がさらに強まることが危惧され、軽減税率導入も業界の混乱が必至だ。これにどう対応するかがカギになる。食品業界がこれまで構築してきた既存のビジネスモデルをアップデート、あるいはリライトしなければならない。

過去、いく度も経験した苦難では、そのたびに知恵と努力で乗り越えてきた。今年も正念場だ。だが正念場だからこそ、食品のあり方をきちんと知らしめなければならない。企業および商品の価値感を損なう売り方ではなく、消費者に伝わる価値創造によって、正当な評価をされる売り方が新しい時代には必要だ。その布石の年でありたい。

増税、統合相次いだ「平成」 大災害で政治・経済

「平成」を振り返ると、バブル崩壊にはじまり、阪神淡路大地震、東日本大地震と2つの大災害を経験、リーマンショックを経て首相が17人変わった。食品業界においては、消費税の導入で価格競争が一層激化。偽装表示に代表される諸々の不祥事では“食の安心・安全”に対する消費者の視線が一層厳しくなった。

酒類では平成6年に過去最高を更新したビールの課税出荷数量は、9年の道交法改正の影響もあり失速、30年には過去最低を更新した。しかし、若年層のビール離れが顕著になった一方でRTDが需要を伸ばしてビールの売上げ減をカバーしている。海外での国産ウイスキーへの評価の高まり、日本酒の静かなブームなど、酒類市場は様変わりしようとしている。

経済全体ではビジネスのグローバル化が進展。インターネットと付随ビジネスの飛躍的な発達がそれを後押しした。個人レベルでもスマートフォンの普及により消費の手段がリアル店舗からネット店舗へ広がりつつある。また、リアル店舗も様変わりした。平成元年に約1万1千店だったCVSは総店舗数を30年で約5倍に拡大させた。DgSも食品の販売強化によって集客力を強め、食品SMは同業態間競争に加えて異業態間競争を強いられるようになった。ディスカウンターでは、ドンキホーテHDがユニーを完全子会社化した。

結果として業界はこの30年間、メーカー、小売、卸ともに統合に次ぐ統合、合併に次ぐ合併を繰り返してきた。人口の減少がさらに進む中、大手企業にとっては国内市場でのシェアアップと海外市場への進出が大命題となっており、業界再編はまだまだ続く。

その中で業界各社がデリカ・惣菜の強化。製配販の三層ともにこの分野への傾注傾向が強まっている。食品SM、CVS、DgSのリアル店舗が、アマゾンを代表格とするネット通販への差別化として、またすべての競合との差別化策として要冷食品に取り組んでいる。

中小企業の生き残り策は、既存商品に磨きをかけると同時に、やはり海外市場に活路を求めることだ。それには、中小同士の連携も必要。もはや単独で事業活動するビジネスモデルは崩れている。大手でも協業を積極的に仕掛ける時代だからこそ、中小メーカー間、あるいは大手企業との連携でブランドを生かした新たな販路開拓が求められる。

キャッシュレス時代へ 消費意識は変わるのか

訪日旅行客の囲い込み進む

国は来年に迫った東京五輪開催に向けキャッシュレス化を進めようとしている。キャッシュレス化は“経済の活性化と、社会コストの削減につながる”というのが表向きの理由だが、最も大きな背景は、年間3千万人を超えた訪日旅行客の利便性の障壁になっている現況があるからだ。

国交省は訪日旅行者数を2020年に4千万人、30年に6千万人と想定している。しかし現状は小売業で56%、飲食業では72%が端末未導入。安倍政権は消費増税に合わせたポイント還元策を発表し、カード決済率40%に引き上げたい考えだが、いかがなものか。

モバイルQRコード決済では昨秋、ソフトバンクとヤフーの出資によるスマホ決済サービス「PayPay」が話題を集めた。同サービスでも中国最大のアリババグループとも提携し、訪日旅行客の取り込みを図っている。だが、情報流出による不正使用も発生し、消費者のこのサービスに対する信頼を失わせたのも記憶に新しいところ。今後こうした課題は改善されるのだろうが、消費のコアとなる世代がどこまで活用できるかは疑問が残る。なおセブン&アイ・ホールディングスも今春、スマホ決済サービスの導入を計画中だ。

いずれにせよ、これまでインターネットサイトで広告、通販を主事業としてきた大手が続々とスマートフォン決済サービスへの参入に意欲を示すのは、消費者のリアルな購買データをより多く獲得し、競合他社よりも効率的な販売手法を確立することにあるのは確か。そのためのファーストステップは消費者の囲い込みとなるのだろう。

キャッシュレス決済には、もう一つの効果として人手不足対策もある。特に食品業界では、外食産業、食品小売、中食産業ともに人手不足が深刻化している。外食産業の場合は、ここ数年の人材難で不採算店の閉店が増加した。またオペレーションが単純で原料コスト、人件費コストが嵩まない業態への集中も顕著になっている。

その中、都内では作業量を約10%削減できる完全キャッシュレス業態の店舗もオープンしている。食品小売でも無人レジ、半自動レジが定着しており、CVSではローソンがすべてのレジを半自動化へ切り換えようとしているが、外食産業における完全キャッシュレス業態は、消費者がキャッシュレス化をどうとらえるのかを見極める試金石となるだろう。

一方、インバウンドについては、昨年、訪日海外旅行客数が3千万人を突破し、この10年で3倍強となった。国別では中国と韓国が拮抗し、全体の50%が両国で占める。

国が掲げる客数と消費額は20年4千万人8兆円、30年6千万人15兆円で、昨年は3千万人、4.5兆円弱だったと推測される。現在、1人当たりの消費額は15万円弱だが、これを30年には25万円にまで引き上げたい。3千万人突破の客数増で見過ごされがちだが、この2年間、単価は落ちているだけに、気軽に消費できるカード決済の普及と各産業界に向け「コト消費」での消費喚起を呼び掛けている。

一方、アウトバウンドでは越境ECによる中国向け輸出が活発だ。だが、国民性もあり求められる商品はトップブランドが中心で、地方メーカーが付け入るすきはあまりない。だが、一部メーカーの知育菓子などニッチな商品が人気を博すケースも少なくない。

SNS「微博(Weibo)」「微信(Wechat)」などで日本の伝統的な基礎調味料にも関心が集まっている。これらのSNSはそれぞれ、1日に1億人以上がアクセスするサービス。既に公式アカウントを開設し活用している国内企業や地方自治体も存在するが、中国輸出を目指す企業にとってはマストアイテムになるだろう。

TPP11、日EU・TPP “ニッポン品質”は健在

進む貿易自由化 世界で大きなうねりに

昨年12月30日にTPP11が発効、農産物の重要品目で関税削減や輸入枠など大幅な市場開放の時代に突入する。農水省試算では、最終的に国内農林水産物の生産額は約900~1千500億円減少するとしている。牛肉の場合、関税は発効日に27.5%に。段階的な削減により16年目には)9%に。輸入量が多い豪州産牛肉は15年に交わしたEPAによって冷凍は26.9%、冷蔵29.3%に抑えられており、大きな変動はない。

今年3月下旬には日欧EPAも発効予定だ。EU向けの食品輸出は日本食ブームの後押しもあり漸増している。ここ数年目立つのは酒類のウイスキー。もともと関税は課せられていないが、17年は約56億円を輸出した。食品ではソース混合調味料(7.7~10.2%)、緑茶(3.2%)、しょうゆ、みそ(7.7%)など。牛肉は関税率は100kg当たり12.8%+最大304.1ユーロだが、いずれも発効後関税は撤廃される。

それぞれの売上規模は10~20億円前後で小規模だが、日本より先んじてEUと自由貿易協定を結んでいる韓国との競合に競り勝ち、日本食品が今後さらに認知を高め需要が拡大することは確実視される。

特に、ここ数年市場が拡大している健康食品、健康志向食品の伸びしろは大きい。この分野ではトクホ、機能性表示食品も商品化例が増加しているが、国内市場は微増でとどまっているのに対し、日本製に対する信頼感の高さからアジア向け輸出は2ケタ近い増加が続いている。

健康食品のOEMメーカーも中国をはじめとするアジアの販社からの受注が拡大した。トクホ、機能性表示食品ともに国内ルールのもので海外では通用しないが、高い商品スペック、品質管理が評価され、輸出先も広がった。機能性表示食品という新制度の施行とインバウンド拡大のタイミングの一致も、日本製健康食品の海外への販路拡大につながった。

F-LINEで新物流モデル 協業、連携で自助努力進む

物流費の高騰はここ数年、食品業界全体を悩ませている問題だ。物流を担う運輸会社の多くは昨年、人手不足、燃料費高などを背景に運賃を引き上げた。今年4月には味の素社、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清フーズ、日清オイリオグループの国内食品大手5社は、共同配送の新会社「F―LINE」を設立、共同配送にはMizkanも加わる予定。

酒類業界ではビール4社が一昨年9月に北海道で共同配送を開始している。昨年4月にはエリアを拡大し関西・四国、九州エリアでも共同配送の運用をスタートした。物流問題は今年も喫緊の課題になることは変わりない。CO2排出量の削減の観点からも社会貢献できる連携。業界内でのこうした連携はさらに拡大することになるだろう。

物流以外でもメーカー間連携は、商品開発、販促でも昨年活発になった。その根底にあるのはコストだけではない。TPP11や日欧EPAなどの市場開放で国内市場への流入する海外商品への防衛策の一環でもあるのかもしれない。メーカーにってシェアアップはもちろん重要だが、各社が構築してきたブランドを守りながら日本の食品産業高める作業も必要だ。

今年はラグビーWC開催、来年は東京五輪開催を控えている。平成時代に多様化が加速化するとともに、価値破壊が進行した食品産業だが、日本の食の立ち位置を再確認する機会にできないだろうか。