伸長続くクラフトビール 大手も参入、価値競争なるか

小規模ブルワリーが製造するイメージの強いクラフトビール市場で、キリンビール、アサヒビールといった大手も積極的な展開を図りつつある。当初は冷ややかな声も聞かれたが大型ブランドとは異なる展開を模索、市場全体にも刺激を与えると期待されるだけでなく、大手内部でも新しい展開の契機となりそうだ。

ビール市場が縮小傾向の中でもクラフトは伸長が続く。大手5社以外のブルワリーは300を超え、昨年も5~6%ほど伸長したとみられる。数年前までは大きな伸びだったが「一気に伸びればブームのように去っていくだけで危険」として成長の落ち着きを歓迎する関係者は多い。

日本ではクラフトのビール内構成比は1.5%程度(金額)。米国(約20%)など欧米に比べれば低い(キリンビール調べ)。観光地や都市部での展開が多いため消費者との接点が薄く認知度が上がりにくいのが難点だ。また必ずしも流通側の態勢も整っていないことも要因の一つだろう。

業務用の展開が多いからこそ珍しいビールとして若者の興味も引いている一方で「日常のビールとなりにくい」面もあり、家庭用にどこまで入り込めるかも課題だ。

クラフトは小規模ブルワリーとのイメージが強いが、15年にキリンビールがスプリングバレーブルワリー社(SVB)を設立。醸造所を併設した飲食店を展開する。アサヒビールは94年にクラフト事業を開始。「TOKYO隅田川ブルーイング」ブランドで直営店などだけで展開していたが、昨年から隅田川パブブルワリーで業務用市場に向けた商品を開発・展開を始めたことで大手の動きも注目を集め始めている。

大手の参入について否定的な声も聞かれるが、「大手が参入することで良い発信につながる」と期待する意見もある。

キリンホールディングスの磯崎功典社長は「ビール市場内構成比5%を目指す」としているものの複数の関係者は「現状の延長では難しい」と語る。ただ「大手の参入により夢絵空事ではなくなった」と期待するブルワリーもある。

SVBは、多様な商品や取り組みを展開。食とのペアリングを重視し、寿司とのコラボイベントなども行ってきた。ビアソムリエも配置してペアリング提案を強化している。

またキリンビールが展開するクラフトの業務用ディスペンサー「タップ・マルシェ」の取扱店拡大で新しい楽しさ、驚きを広めたいとする。

アサヒ「ゴールデンエール」
アサヒ「ゴールデンエール」

アサヒビールは隅田川パブブルワリーのような小規模ブルワリーで生産したものを「本格クラフトビール」、大型工場で造ったものを「スペシャリティビール」と定義。東京23区内限定展開の業務用本格クラフトは100店舗以上が採用。スペシャリティの採用は1千店を超えた。飲食店の料理に合ったビールを提案。味覚センサーを用いた科学的な相性提案も試みる。

家庭用では上面発酵酵母を採用したスペシャリティビール「ゴールデンエール」を首都圏のCVS限定で発売。英国伝統のホップを一部使った「ペールエール」とドゥンケルスタイルの「琥珀の時間」を8月から業務用で、11月からはCVS中心に缶も発売した。

クラフト事業は大手の営業スタイルなどにも影響を与え始めている。クラフトを薦めるのであれば「商品を語らなければいけない」(メーカー)、「メーカーでありながらその気風が薄れてきた」(同)中で、アサヒビールでは丁寧な営業活動がより進みニーズへの提案、営業マンの育成にもつながっているとし「規模で売っていたものを価値で売るということが良い勉強になる」(担当者)と期待する。そのためか「ピルスナーウルケル」など外国ビールの商談も進む。

別の関係者も「(価格競争を中心とした)激しい競争では皆が疲弊するだけ」といい「価格戦も必要だが疲弊しない世の中の方が良いだろう」とシェア争いから価値競争への転換に期待する。

小規模ブルワリーたちも大手の展開を見守っている。「価格戦を仕掛けられたら敵わない」と警戒するが「発信力のある大手が価値競争を繰り広げることで市場は豊かになり、世界観が盛り上がるのでは」と先行きに期待している。