環境にやさしいコーヒー アジアの産地と関係構築 野菜提案企業・坂ノ途中

野菜提案企業として09年に創業した「坂ノ途中」は、主力事業である旬の野菜等のネット通販に次ぐ第2の事業としてコーヒーに注力している。同社は持続可能な農業の普及を目的とし、農薬や化学肥料を使わない栽培方法を取る新規就農者や若手農家から農産物を仕入れて販売している。

販売先は、個人へのネット通販(定期宅配)が6割強を占め、レストラン・ホテル・百貨店などへの卸売が3割弱。現在、関西圏を中心に約200軒の農家と取引し、ネット通販は毎年拡大しているという。

コーヒー事業は、海外での環境負荷低減や就農者の所得確保の取り組みの一環として展開。現在は「海ノ向こうコーヒー」と称し、ラオス、ミャンマー、フィリピンのコーヒー豆を扱っている。

今後について小野邦彦代表は「アジア圏のスペシャルティコーヒーの日本での販売をこれからの事業として伸ばしていこうと考えている」と意欲をのぞかせる。

最初に着手したのはラオス。12年にウガンダで始めたゴマの有機農法が軌道に乗り総合シンクタンクの目に留まったことが契機となった。「シンクタンクの方から『ラオスの森林減少が著しく一度見に来てほしい』と言われ、最初は落花生など耳学問の仮説を持って訪れたが、コーヒーが一番適していそうだと判断した。コーヒーに関して特段知識があったわけではないが、植物の原理原則はだいたい一緒」と振り返る。

森が日差しや寒波から苗を守る㊤ 乾燥工程には「アフリカンベッド」を採用(いずれもラオス)
森が日差しや寒波から苗を守る㊤ 乾燥工程には「アフリカンベッド」を採用(いずれもラオス)

ラオスでは、北部のモン族が暮らすロンラン村(標高800~1千400m)と16年から関係を構築。コーヒー畑は訪れた当初から存在し、アメリカ人の経営するカフェが継続的にコーヒー豆を買い付けて村人の副収入になっていたものの、品質向上には踏み込めていなかったという。

「東南アジアにはよくコーヒーの木がある。NGOから贈られた苗を植えるのだが、技術指導がないままに栽培されている」と説明する。

坂ノ途中が行ったのは、完熟豆だけを摘み取る適期収穫の徹底や発酵・乾燥などの精製工程の見直し。

発酵は15パターン試した中から、水に漬けないドライファーメンテーションを採用。「ラオスでは来年も同じ品質と同じ量の水が確保できるか分からない。ドライでやっているが、発酵速度を緩めたいので夜に発酵させ、感触ではなくpH計を用いてpH4で発酵を止めるようにした」。

乾燥は地面で乾かしていたのをやめて、アフリカンベッドの高床で行うようにした。

今年の収穫量は約2t。数年後に、標高1千mにある村の共有地に植えた苗で収量アップを見込む。森を守るため果樹などのシェードツリーの下に苗を植え、強すぎる日差しや寒波からコーヒーの木を守り育てるアグロフォレストリーという農法を採用している。

同社が入る前は「森の中で放任栽培が行われシェードが強くなりすぎていたりしてアグロフォレストリーとは呼びづらかった」。

現在、ロンラン村では70世帯のうち17世帯がコーヒーを栽培。「『メーン作物ではないが副収入としてどうやらコーヒーがよさそうだ』という話が村の中で広まっている。この村の収量を上げるとともに他の村も巻き込んでいく」。

フィリピンの農園㊤ 山肌にはハヤトウリの蔦が広がる
フィリピンの農園㊤ 山肌にはハヤトウリの蔦が広がる

ラオスに次いで取り組んでいるのがミャンマーとフィリピンのコーヒー。ミャンマーでは東部のシャン州ユアンガン(標高1千400~1千600m)でかねてからコーヒーの品質向上に取り組んでいる現地企業を後押し、ラオスで取り入れている微生物を使った排水の水質浄化の仕組みを共有。焼き畑による環境負荷に対しても取り組んでいる。生産量は数十t単位で、坂ノ途中は今年、輸入した6tがほぼ完売したため9tを追加輸入した。

小野代表が味覚をひときわ高く評価するのはフィリピン・ミンダナオ島ブキドゥノン(標高1千900m)の一部でのみ栽培されるカラサンという品種のアラビカコーヒー。現地では「スイート」と呼ばれ、高地民族のタラアンディグ族の間で代々飲まれているという。

年間生産量は数百kg単位と希少のため数量限定で販売している。ここではフィリピンの山岳地帯で栽培の盛んなハヤトウリが土地をやせさせる原因になっており、坂ノ途中はこの問題を解消するものとしてコーヒーの栽培を推奨している。

「カスカラシロップ」と焙煎豆を手にする小野邦彦代表(坂ノ途中)

具体的には「環境負荷を下げるというのは生物多様性を確保するのと同じ。ハヤトウリをプランテーションするとウリの蔦が山肌をはうように成長して日が遮られるため下草が生えず土がやせてしまう。環境保護団体は、まばらに植える疎植栽培を勧めているが、それだけだと農家にとって収入減にかしかならず、そこを補うものとしてコーヒーでアプローチしている」。

日本での販売は生豆の卸がメーン。個人向けの焙煎豆は委託工場で焙煎・パッケージングしたものを一部の店舗や通販で販売している。

副産物商品も販売。コーヒーの果実を乾燥させてつくられるカスカラを使った「カスカラシロップ」や「カスカラコーヒーチェリーティー」を取り揃えている。