鹿児島県・伊仙町篇⑥
「夢が持てて楽しい」 生産者会一丸で収量アップ目指す

過去の失敗事例に感謝 コーヒーなどの兼業で本業にも好影響

直木広人さん(48歳)は、福島県いわき市出身で東京の水処理プラント会社に就職し、28歳の時に夫人の出身地である徳之島に移住。現在は土木工事会社に勤める傍ら、早朝や週末を利用して夫人方の実家で畜産(繁殖牛)や農業(馬鈴薯)を手伝っている。

「土木工事の現場は半年間で完成し、馬鈴薯は4か月、繁殖牛は8か月で出荷する。短いサイクルで生活している中で、コーヒーは収穫までに3~5年、収穫期間30年と先を見据えた考え方をするようになり、夢が持てて楽しい」と語る。

直木さんは今年4月に、徳之島コーヒー生産者会に加入。親戚の耕作放棄地を借りて5月からコーヒーの苗木20本を試験的に植えて栽培を開始し、来春に200本を植え付けることを目指して50aの畑を準備している。

②防風林がある準備中の50aのコーヒー畑

「馬鈴薯も繁殖牛も個人でできる仕事だが、コーヒーは生産量を増やさないと相手にしてもらえない。私は兼業でやっているので個人で収量を増やすには限界があり、情報交換しながらみんなで頑張っていきたい。仲間も増えてほしい。島民は最初にやりたがらないが成功事例が出れば増えていく」との考えだ。

徳之島コーヒー生産者会に入って得られる利点の1つに、過去経験した台風による失敗事例を挙げる。「生産者会の吉玉代表の農園には、台風で倒されたコーヒーの木が残されており、倒れた状態をみんなで観察するのが一番勉強になる。先輩がいてくれて失敗事例を残しておいてくれるのは本当に有難い」と感謝の意を表する。

飼料袋で幼木を包み込むように被せた状態
③飼料袋で幼木を包み込むように被せた状態

一方、直木さんは土木で培ったノウハウを活かし台風対策に臨む。「仕事柄、台風の最中に災害対応することもあるので風の強さは肌身で感じている。土木で使っている資材の中で台風対策に使えそうなものをいろいろ考えていきたい」と意欲をのぞかせる。

既に馬鈴薯畑には冬の北風対策として防風ネットを設備。「柵が高すぎると風当りが強くなり台風の季節は外してしまうが、コーヒーに適したやり方があると思う。馬鈴薯畑をベースに改善していく」。

また、使い道がなく堆肥として積まれている繁殖牛の牛糞も、有機農法への活用を見込んでいる。

④防風ネットを下ろした状態の馬鈴薯畑

味の素AGF社と丸紅が参画する徳之島コーヒー生産支援プロジェクトに対しては、11月に設置予定の水洗ミルに「今は手回しだが収量が多くなれば必要」と期待を寄せる。

直木さんの主な平日の日課は、早朝が3頭いる繁殖牛の世話、8~17時が土木の現場監督、帰宅する夕方にコーヒーを含む農作業となる。

週末などを利用して農業に携わることで直木さんの本業である土木の仕事にも好影響を与えているという。「畑いじりをしていると仕事のことを忘れて気分転換になる。限られた時間を上手に使おうとする意識も働き残業をほとんどせずに効率よく働けるようになった」と述べる。

⑤繁殖牛

台風24号について 直木さん追伸(10月19日着、一部抜粋)

今年の夏、7月から発生した台風は全て徳之島へ接近したもの、上陸は無く過ごした。

しかし、9月29日~30日にかけて台風24号は徳之島を直撃した。瞬間最大風速50m以上の暴風域を伴い、島内全域が停電、暴風の音だけが鳴り響き、眠れぬ夜を過ごした。いよいよコーヒーの台風対策の実証実験の始まりとなった。

翌朝6時、台風の吹き返しがやまぬ中、伊仙町内の県道の復旧業務を行った。道路に散乱したトタンを片付け、倒木をチェーンソーで撤去、かろうじて通行できる状態とした。

徳之島全体として、家屋や牛舎の倒壊や停電をはじめ甚大な被害を受けた。また、農業においても、サトウキビをはじめ多くの農作物が被害を受けた。

30日午後から、ようやく自分のコーヒーを見に行くことができた。今年5月に植えた幼木20本と9月に植えたばかりの苗木20本は台風対策が功を成し1本も倒木や葉の欠損が見られなかった。

今回の成功の一因は大きく2つと分析する。1つは間接的な対策として谷間地形と周囲の防風林が役に立ったこと。

もう1つは直接的な対策として生産者会で習った幼木を包み込むように被せたことである。小さな苗木は空の植木鉢を逆さまに被せただけである。

土木工事の基本である「安く、早く、良く、安全に」のモットーは農業にも通じるところである。

今回の台風で生産者会の一部の成木でも倒木が見られた。今後は成木の台風対策にスケールアップして種々の試みに知恵を絞り、今回の成功を大成功につなげていきたい。