鹿児島県・伊仙町篇③
徳之島コーヒー元年 夢は生豆の状態で10t出荷 吉玉誠一代表 移住からの過去語る

コーヒーができる理由
黒潮が気温上げ栽培に適した環境に

キャッサバやコーヒーは熱帯作物であることから、吉玉代表は移住当初この地での栽培は難しいとふんでいたが、のちに、栽培可能な理由が黒潮にあることを知る。

「30年くらい前に、沖縄で本格的にコーヒーの栽培を始められた和宇慶朝伝(わうけちょうでん)先生を訪ねたところ、沖縄を含め徳之島には黒潮が流れ、黒潮は魚だけではなく気温も上げてくれるので底冷えが起こらないことを教わり“心配せずにやりなさい”と背中を押していただいた」という。

「防風対策さえできれば…」2度の台風で3000本の苗全滅

09年に伊仙町経済課が沖縄県から購入した約6千本の苗木は、ブラジルの国立コーヒー研究所で6か月間留学しブラジルから苗木を持って帰ってきた和宇慶朝伝氏から沖縄の後身が受け継いだものとなる。

この6千本の苗木は「旧農業高校のビニールハウスを借りて1年かけて育苗した5千700本のうち3千本近くを苗植えしたが、活着して間もない頃に大型台風が2回連続で襲来しほとんどダメになった」という。

その後、残りの3千本弱の苗木を植え直し、外部から資金的・技術的支援を得ながら栽培を続ける。「皆、青息吐息の状態だったが、防風対策さえできれば徳之島でコーヒーができると思っていた」。

そこへ渡りに船の申し入れを行ったのが味の素AGF社。日本人の味覚に合ったおいしいコーヒーをつくる“ジャパニーズコーヒー”を追求している同社にとって、徳之島の国産コーヒーは垂涎の的であった。

子どもたちに夢を 焙煎工場も思い描く

17年、伊仙町、徳之島コーヒー生産者会、丸紅、味の素AGF社との4者で徳之島コーヒー生産支援プロジェクトを発足。徳之島コーヒーが次世代につながる事業へと発展していくことなどを目的に生産農家への支援を開始した。

まず台風に強い鉄骨を使用した育苗・乾燥のためのビニールハウスが竣工され、その中で味の素AGF社の社員がポットに種植えした2千個を育苗。今年4月に、そのうち100本を「AGFコーヒー実証農場」=写真2・6月撮影=に本植した。

写真② AGF実証農場

種は丸紅が提供。種類は、ブラジル・イカトゥ種、コロンビア・カスティージョ種、コロンビア・タビ種、インドネシア・ロングベリー種、インドネシア・アデンスーパー種、グアテマラ産・ブルボン種、グアテマラ産・カツーラ種の計7種類で、いずれもアラビカ種を基本に低木に育つタイプとなっている。

実証農場でこれらを成木に育てることで、台風に強く徳之島の環境に合った品種を探っていく。

ビニールハウスで育てられた種は生産者にも分け与えられる。徳之島コーヒー生産者会の26人のうち実際に栽培を手掛けているのは数名で総生産量は現在のところ100kg弱。「今は親戚や知人に贈るなど島内で消費している。年間を通じて出せるのは私の妻がやっているカフェ『スマイル』で、私が焙煎して店に運んでいる」状況だという。

当面は、この100kg弱の生産量を1tに引き上げることを目標に掲げる。「成木になるのが5年後で、そこから実をつけながら生育していくので向こう10年で1tの目標が達成できればいい」とみている。

将来は「夢のまた夢だが最大の目標は生豆にした状態で10t出荷すること。これが達成できればコーヒーの生産地として名乗りを上げることができる。実際にお金になることが知られれば生産者は増える。コーヒーが子どもたちに夢をもたせられるような農業形態の1つになれば嬉しい」と意欲をのぞかせる。

生産が軌道に乗る前提で、焙煎工場の夢も思い描く。「徳之島で飲むコーヒーくらいは、島の中の1人が焙煎工場を持って100%供給したい。将来登録が見込まれる世界自然遺産との効果も期待できる」と語った。

徳之島コーヒー生産者会の方針
有機無農薬栽培とトレイサビリティの徹底
写真③ 牛糞
写真③ 牛糞

徳之島コーヒー生産者会では、有機無農薬栽培を徹底する方針を掲げる。唯一の例外は台風などに見舞われ全滅の危機になったときで、その際は「躊躇なく化学肥料を入れる」。

この方針は、キューバの事例を参考にした。「熱帯有機農業を始めて行ったのがキューバ。そのやり方を学んでいきながらコーヒーを栽培していく。牛糞=写真3=や鶏糞を中心とした堆肥や緑肥(しょくひ)を使用する。緑肥はソルゴー=写真4==などを畝の間に一定の高さにまで育てて、それを根っこから切っておくと除草される。そこに鶏糞でも撒けば、1、2年くらいのうちに腐食して肥料になる」と説明した。

徳之島コーヒー吉玉農園というように、徳之島コーヒーを冠に生産者名を表に出すことでトレイサビリティも徹底する。「“作物は作人の顔”で、生産者一人一人が説明を求められたときにしっかり語れるようになることが重要。農薬を使う場合は生産履歴にはっきり示せるようにしなければならない」との考えだ。

写真④ ソルゴー
写真④ ソルゴー

生産者会では定期的に勉強会を開き吉玉会長もそこで後身を指導。「特に夏場と冬場は、できれば毎日、難しければ2日1日、畑に行って変化を確認しなさいと言っている。とにかく分からないことだらけで、外国への研修も検討して島のやり方と付け合わせながら進んでいきたい。今年は徳之島コーヒー元年で、私もアマチュアでちんたらやっているのは限界だと思っていたのでこれからプロを目指していく」。