徳之島のコーヒー生産 移住者が新風 最大の難題・台風対策に知恵

コーヒー作りで働き方改革

徳之島コーヒー生産者会(鹿児島県)に異業種の経験を持つUターン者やIターン者が入会し、新風が吹き込まれようとしている。同会で約35年の栽培経験を持つ吉玉誠一代表(72歳)をのぞき経験者は皆無に等しいが、最大の難題である台風を乗り越えるには“新顔”の果たす役割は大きいように思われる。外部の知見としては、徳之島コーヒー生産支援プロジェクトに参画する味の素AGF社や丸紅にも期待が寄せられている。

「島で子育てしたいと思った。仕事は何でもよかった」と語るのは3児の父の満田文則さん(40歳)。少年期を徳之島で過ごし、大阪でパン職人や介護士の仕事に就き昨年3月に移住。現在、叔父の農園の跡取りとしてショウガやキャベツなどの生産を手掛ける傍らコーヒーの生産に挑む。

木々に囲まれた土地を耕しコーヒーの苗木を植樹できるように準備し「農業経験ゼロからのスタートで、いろいろな人に教えてもらいながら取り組んでいる。ショウガやキャベツで農業のノウハウを身につけて基盤を安定させてからコーヒーに本腰を入れていきたい」と意欲をのぞかせる。

直木広人さん
直木広人さん

徳之島で土木工事の現場監督を務める直木広人さん(48歳)も6年前まで農業未経験。福島県出身の直木さんは東京の水処理プラント会社に就職し、28歳のときに夫人の出身地である徳之島に移住。6年前、夫人方の実家に同居したのを機に畜産と農業を手伝うようになった。コーヒーを手掛けたのは今年からで、親戚の耕作放棄地を耕作し、そこに生産者会から提供された20本の苗木を栽培している。

早朝や週末を利用して農業に携わることで、直木さんの本業である土木の仕事にも好影響を与えているという。「畑いじりをしていると仕事のことを忘れて気分転換になる。限られた時間を上手に使おうとする意識も働き、残業をほとんどせずに効率よく働けるようになった」と語る。

土木の経験・ノウハウを生かし台風対策にも知恵を絞る。「仕事柄、台風の真っ最中に災害対応することもあるので風の強さは肌身で感じている。土木で使っている資材の中で台風対策に使えそうなものをいろいろ考えていきたい」と述べる。

泉延吉さん
泉延吉さん

コーヒーの木の防風・支柱役として千年木(せんねんぼく)を植えて、平地に近い場所での台風対策を先駆的に行っているのは吉玉代表の片腕である泉延吉さん(70歳)。泉さんも9年前まで農業未経験で、機械設備制御の仕事を辞めて東京からUターンした。

コーヒー栽培では、2年連続の台風で畑が半壊した過去の経験を踏まえて、コーヒーの木の近くに2m以上の高さに育つ千年木の植樹を考案。「千年木は根っこが少ししかなく横には毛根があるだけで畑の邪魔をしない。昨年10月の台風も乗り越えることができ、これだったらコーヒーはできると思った」と自信をのぞかせる。

泉さんの農園に隣接する「AGFコーヒー実証農場」には、今年4月に植樹された100本の苗木が栽培されている。同農場にも千年木が植えられ、周囲には台風対策ネットが張られている。今月下旬には外部の知見を取り入れ、さらなる台風対策が施される予定となっている。

なお2~3日にかけて徳之島を北上した台風7号の影響については「強風で道路に木が倒れて撤去作業に追われたが、農園や実証農場は無事であることを確認した」(吉玉代表)という。

副産物にも活用可能性 葉・花・果肉を製品化 宮出珈琲園

徳之島コーヒーには、コーヒー豆だけでなく、コーヒーの葉・花・果肉を加工した副産物の可能性も浮上している。

伊仙町地域おこし協力隊でもある宮出珈琲園の宮出博史さんは、2007年からコーヒー栽培を始め、17年に300本を初収穫する一方で、11年間、豆だけでなく、花、果実、葉っぱなど、コーヒーの今まで捨てられていた部分の飲み方を研究。これにより、コーヒーの木を丸ごとおいしく味わう調製方法、焙煎方法、発酵方法を編み出し製品化にこぎ着け、同園の「珈琲葉茶」「珈琲花茶」「珈琲果実茶」はこのほど、伊仙町・ふるさと納税のお礼品として採用された。

副産物による製品をアピールする伊仙町町役場未来創生課の松岡由紀主査(左)と嘉納寿成主事
副産物による製品をアピールする伊仙町町役場未来創生課の松岡由紀主査(左)と嘉納寿成主事

同園を含め副産物などのビジネスを支援する伊仙町役場未来創生課の松岡由紀主査は移住者の特徴について「経験則によると役場を頼ったり条件を比較して移住を考える人はまず残らない」と指摘。嘉納寿成主事はコーヒーへの就農について「コーヒーだけで生計を立てるのは難しく、何かしらの仕事をしながらコーヒーを栽培するのが一番のやり方だと思う」と助言する。

満田さんも「小説家や漫画家、プログラマーなど田舎ででもできるプロの方が入ってくれれば、島内の需要も拡大できる」と提案する。