インタビュー /食品EC市場開拓へ 日清食品の挑戦

日清食品マーケティング部ECグループブランドマネージャー
佐藤真有美さん

【プロフィール】
佐藤真有美(さとう・まゆみ)

日清食品の直営オンラインストア事業をリード。商品の売り方、集客、コミュニケーション、システム開発までを一気通貫で管轄している。オンラインチャネルマーケティングの専門家として2014年に日清食品に入社し、1年目は米国市場のオンライン向け商品開発を担当、2年目から日本の直営オンラインストア立ち上げを担当している。

潜在需要を掘り起こせ メーカーECビジネスの意外性

昨年11月、マーケティング調査会社ニールセンは、「食料品のEC(エレクトロニックコマース=電子商取引)売上が、5年以内にオフライン売上を超える見通し」と発表した。共働き世帯の増加といった社会的背景に加え、利便性を求める消費者の増加、シニア層まで広がったインターネットの利用者(15年度末1億4千6百万人)と人口普及率(83%)の上昇、さらにはECの端末となるスマートフォンなどの普及もあり、食品EC売上はさらなる成長が予想される。そうした状況下、いち早く自社ECサイトを展開、「スーパーマーケットやコンビニで販売しているNB品を、メーカーが自社ECサイトで販売しても意味がないと考えている方が多いのかもしれませんが、実はそうではないということが分かってきました」という日清食品マーケティング部ECグループブランドマネージャー佐藤真有美さん=写真①=に、同社EC事業の現状、今後の展開などについて話を伺った。

─ 16年10月の日清食品グループオンラインストア(https://store.nissin.com/jp/)のリニューアル=写真②=から1年半が経過しました。現在の販売状況についてお聞かせ下さい。

佐藤真有美 日清食品マーケティング部ECグループブランドマネージャー

佐藤: 出荷数やお客様の利用者数は右肩上がりで成長が続いています。規模はオフラインの方がまだまだ圧倒的に大きいですが、成長率はオンラインのほうが高いです。リニューアル前と比較すると利用者数は4倍以上になっています。

当社の商品は、自社以外のECサイトでも販売していただいていますが、メーカー直営ならではの差別化策として、全商品を1食からご購入いただけるようにしました。ケースは15%オフでご購入いただけますが、1食単位で購入される方が多いです。「1食」「1ケース」を同じ「1個」とカウントすると、7割以上が好きな商品を1食ずつ選んで購入されています。

また、オンラインストアをリニューアルしてから1年経過した頃、「大量に購入したいのだけれど、どこで買えますか?」というお問い合わせを企業ホームページからいただくようになりました。

例えば、イベントなどで使用したいので「100ケース購入したい」、「1千食購入したい」といった声をいただきました。直営ECサイトはもともと、個人向けの販売を目的とした利用規定で運営していたのですが、そういったご要望にお応えするため、昨年10月から大量販売をサポートする利用規定や決済条件に変更しました。

同時に「大量購入コーナー」=写真③=という売場をECサイトに立ち上げました。購入条件(10ケース以上)はありますが、ボリュームディスカウント、送料無料、指定した日付でお届けするというサービスをスタートさせたところ、想定以上の伸びになりました。(写真下記事続く)

想定外の需要「大量購入コーナー」(写真③)
想定外の需要「大量購入コーナー」(写真③)

大量購入は法人利用が目立ち、特定のお客様からのリピート利用も多いため、実際に利用されている法人顧客に動機やご利用実態をヒアリングしました。その内容を広く紹介したく、先日、活用事例をまとめたリーフレットを作成しました。リーフレットに1千円分のお試しクーポンも付け、幅広い活用方法をご案内していこうと考えています。メーカー直営(ECサイト)ならではのご利用のされ方、新しい入口が見つかったかなという段階です。

大量購入&ギフト 想定外の法人需要

─ 法人利用というのは、当初はまったく想定されていなかったECサイトの使われ方ということでしょうか。

佐藤: まったく想定していませんでした。そもそも「同じフレーバーを1ケースなんて、12食も20食も必要ないだろう」と思い、全ての商品を1食から購入できるようにしたわけですから。それはそれで一定数の利用が進むなか、大量購入のような、本当の一括導入のようなニーズに対応できていなかったということがわかりました。コンビニや量販店ではできないタイプの購入の仕方というか、そういうものが直営店やオンラインに求められる=写真④=のだなということを実感しています。(写真下記事続く)

人気のヒミツはこちら(写真④)
人気のヒミツはこちら(写真④)

─ 現状、個人と法人の売上構成比はどうなっているのですか。

佐藤: 「大量購入コーナー」は現在、全体の1割程度にまで拡大しています。それから、思った以上に伸びているのがアウトレット販売です。賞味期限は十分残っているのですが、通常のルートでは出荷できなくなった商品を直営店で割引販売しています。構成比は定価販売7割、アウトレット2割、大量購入1割という感じです。

個人を中心とするお客様は、日清食品の販売代理店になっていただいているインターネット通販でもしっかり売上を伸ばしていく。ECでは競合しますが、インターネット経由で即席麺を購入するお客様が増えることはお互いにとって良いこと。EC市場の拡大に向け強化しているところです。

─ 法人の部分は伸びしろがありそうですね。

佐藤: 通常購入は、人口構成比と同様、東京がメーンで、次いで関西など大都市圏、47都道府県全域となりますが、大量購入は地方がほとんどです。

法人購入の用途として一番多いのは、社内の福利厚生として活用されているケースです。社員食堂がなかったり、コンビニが近くにないので社員がお弁当を持ってきているとか、社員が買い出しに行っているとか。代表の方が購入し、社内で販売したり、無償で配ったりしているというケースもあるようです。

それから販促用に購入いただいているケース。自動車販売会社や携帯ショップで、それまでは別のものを来店記念としてお客様にプレゼントしていたようですが、切り替えていただいたようなケースもあります。

福利厚生、キャンペーン、イベントのプレゼント、ホテルの夜食等々、いずれもこちらが想定していなかった用途です。

もう一つびっくりしたのがギフトとして贈られていることです。ギフトでお取引先にお贈りするとか、開店祝いで贈られるとか。

ECサイトをリニューアルした際、もともとサービスとして提供していた包装紙と熨斗(のし)のデザインを作り直し、種類も増やしました。ケースで購入いただいたお客様に、ギフトラッピングの包装紙と熨斗をサイト上でお選びいただき、ラッピングされたイメージを事前に3D画像で確認していただけるサービスを始めました=写真⑤。ギフト発送も直営店ならではのサービスですが、思った以上に使われていることがわかりました。(写真下記事続く)

ギフトに商機あり(写真⑤)
ギフトに商機あり(写真⑤)

「大量購入コーナー」やギフトなど、まだまだ顕在化していない需要があるものと考えています。安定的にお客様を増やしていくためにも、直営店がECをやる意味を突き詰めていかなければいけないと考えています。

新サービス導入に意欲 物流費の高騰には苦慮

─ 新たな需要を発掘されているというお話ですが、課題はありますか。

佐藤: 新しい売場を作ったり、サービスを入れたりすると、どうしてもシステム改修に時間と費用が掛かります。現在はやりたいことがありすぎるのですが、「あれも、これも」というわけにはいかず、改修が追い付かないという状況です。

新しいサービスを始めようとすると、まず仕組みを作らなければならないので、すぐに始められないのがデメリット。新しいサービスを導入していくスピード感がもの足りないと感じています。

内容にもよりますが、新しいサービスのためのシステム改修には最低2〜3カ月、大掛かりなものであれば半年はかかります。歯痒さはいつもあります。

─ 現在、物流コストが大幅に上昇しています。収益にも影響を与えていると思いますが、現状はいかがですか。

佐藤: 物流コストが上昇している背景には、物流会社がいままで無理をしていたということがあるかも知れませんが、当社も物流費は大幅に上昇しています。これほど上がるとは思ってもみませんでした。

─ 物流費の上昇については食品産業界も苦労していますが、どう対応されているのですか。

佐藤: 今年1月から、個人のお客様の配送料を一律320円(税別)にさせていただきました。それまでは2千円以上の購入で配送料無料というサービスをしていましたが廃止したのは苦渋の決断でした。

ただ、購入金額2千円未満のお客様にはそれまで、送料として540円をご負担いただいていたので、その部分は購入しやすくなったかなと考えています。

─ 売上への影響はいかがでしたか。

佐藤: 客数、客単価、購入率とも今のところ目立った変化は見られませんでした。送料が320円になったことで「2千円以上買おう」というマインドはなくなったと思いますが、「送料がかかるのなら、細かく買うよりもまとめて買おう」という感じなのかも知れません。ECサイトでご購入いただいた場合、お客様には次回使える200円のクーポンをお配りしているので、実質の配送料は120円ということになります。それも影響しているかもしれません。

─ 物流面の課題もありますが、食品EC市場の将来性をどうご覧になっていますか。

佐藤: 私はIT業界から転職してきました。ソフトウェア商品とか、パソコン回りのデバイスとかは、家電量販店とオンラインの売上構成比が数年の間に大きく変化しました。当時は高額商品がネットで売れるだろうかと思われがちでしたが、店頭で品定めする必要がなく、単純に「ECで買う方が楽」というニーズが増えたためだと思います。働く女性が増え続ける社会環境においては食品も同様ではないかと思います。食品のEC売上は伸びないと思われているかもしれませんが、絶対に伸びてくると考えています。

最近、若い層のEC利用も増えてきています。デジタルネイティブが主流になってきた時、ECはもっと成長するでしょう。

ECはお客様との接点 まずは規模拡大を目指す

─ 2018年度のご計画についてお聞かせ下さい。

佐藤: 「大量購入」の法人サービスを伸ばすことと、ギフト需要を伸ばすこと、この二つが大きな柱です。また、常に活気溢れる売場であるよう、年間を通し来店したお客様がわくわくするような販促も仕込んでいきたいと考えています。

ECサイトで1回ご利用いただく背景には、その何倍、何十倍とサイトを訪問してくださっていると思っていますので、販促やキャンペーンはこれまで以上に強化していきます。

日清食品はユニークなテレビCM、人気タレントを起用したCMを展開しています。直営店ならではのCMとのタイアップ、CMに出ているタレントさんのファンの方には直営店ならではのサービスが受けられるようなコラボレーションも強化していきたいですね。

「日清のどん兵衛」は星野源さんと吉岡里帆さんのCMが人気ですが、CM撮影時のカットをクリアファイルにして「どん兵衛食べ比べセット」とのセット商品を販売したところ、用意した1万セット(8食入り)が約5時間で完売しました。8万食が5時間で売れたことになります。

これは極端な例ですが、こうしたコラボレーション=写真⑥=もお客様に喜んでいただけるなら、直営店でどんどん仕込んでいきたいと考えています。アニメとのコラボキャンペーンなども集客の手段です。集客が増えると売上高も伸びます。日清食品が直営店を運営しているという認知を高めてもらうという点でもいろいろな活動をやっていきます。(写真下記事続く)

ECならではのバラエティー(写真⑥)
ECならではのバラエティー(写真⑥)

─ 日清食品ホールディングスのなかで、ECビジネスをどういう位置付けにしたいとお考えですか。

佐藤: いまは規模を大きくしていくことしか考えていません。社内で役員に話しているのは、個人や中小企業の方々と直接の接点を持っておくことは、実は先々のいろいろなビジネスの発展性、イノベーションのカギになるのではないかと思っているということです。

消費者に直接販売ができると、新しい商品を試してもらうとか、意見を聞けるとか、トライアルしてもらいそこからインサイトを導きだすとか、新しい活用方法も生まれてきます。お客様の規模が大きくなってくると、大きな調査パネルを持っているのと似たような考え方もできます。生データが得られる点も、直営店をやる意味と考えています。

ブランドコミュニケーションについても、商品を選ぶところから届けるところまで一気通貫でメッセージを送り続けることができるのですから、ECはお客様との接点、売場として大切です。

数値目標は公表していませんが、今後2〜3年間はこれまでの実績を大きく上回る高い目標を立てています。自社ECをやる意義から遠ざかることなく、今後も成長を続けていきたいと考えています