國分勘兵衛 平成を語る〈2〉 過当競争と規制緩和 崩れた需給バランス 新たな公正取引ルール必要

――次に景気と競争環境についてお聞きします。バブル崩壊の後、デフレ不況を強く感じ始めたのはいつ頃ですか。

食品は比較的安定した業界ですからね。経済停滞の中でもひどい不況を感じたことはなかったと思います。支持される小売業態の入れ替わりはありましたが、市場全体では平成を通して堅調な流れを保っていたのではないでしょうか。

ただし、次第にオーバーストア、オーバーサプライが色濃くなり、過当競争に拍車がかかっていったのは確かです。低価格化も進みました。私が国分に入社した昭和42年(1967年)当時はビールでも供給不足が頻繁に発生していましたが、昭和末期の「アサヒスーパードライ」の爆発的ヒットを最後に、そういうことは滅多に起こらなくなりました。

――過当競争の問題は平成10年代の初め頃から指摘されていました。それでも需給バランスや競争環境を修正できなかったのはなぜでしょうか。

やはり、根底にあるのはシェア争いでしょうね。需要が伸びない中で自分の会社が成長するためには、シェアを広げざるを得ない。ところが、競合他社も同じように考えているので、熾烈なシェア争いになり、需給も価格も崩れていったということです。

――シェアへの執着が企業の本能だとすると、今後も平成期と同じような競争環境が続いていくのでしょうか。

続くと思います。しかし、人手不足などによる昨今のコスト環境変化の中でサプライチェーンを維持していくためにも、採算度外視のダンピング合戦は避けなければなりません。それには行政の力も必要です。皆さんよくご存じの通り、酒類に関しては平成29年(2017年)の酒税法改正によって単品レベルでの総販売原価割れ販売が禁止されました。今後は同様の公正取引の枠組みが食品にも求められてくるのではないでしょうか。

――食品の過当競争が深刻化した背景には、平成初期に行われたさまざまな規制緩和の影響もありそうです。平成2年(1990年)以降の運送規制緩和による運賃・賃金の低下が昨今のトラックドライバー不足につながったという見方もあります。今後の規制・開放政策のあり方をどのように考えますか。

規制は特定の一部の業者に権益をもたらすものであって、必ずしも業界全体の発展や消費者利益の確保につながるものではありません。今後もできるだけ規制をなくし、競争を促進していくべきでしょう。ただし、先ほどの価格の話と同じで、自由で公正な競争環境を保つためには行政のグリップも必要です。つまり、規制を緩めつつも一定のルールのもとで運用を行っていくことが肝要なのだと思います。価格だけでなく、適正な労働環境の整備などを参入条件に加えるという考え方もあるでしょう。

――仰る通りですね。平成の規制緩和にはそうしたグリップの発想が欠けていたのかもしれません。(つづく)